『太陽』

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昨年夏に公開され、話題をさらった映画の一つ『太陽』。
イッセ−尾形主演の、太平洋戦争最後の数日間の昭和天皇を描いた作品がDVD化されました。
ロシアのアレクサンドル・ソクーロフ監督の、「モレク神」(ヒトラー)、「牡牛座」(スターリン)に次ぐ、20世紀の権力者を描く4部作の3作目として製作された映画。神と崇められていた昭和天皇が、終戦を期に「人間宣言」するまでの心の葛藤を描いている。

今までロシア語でしか観たことのない監督の作品を、日本語で観るのは不思議な体験でした。ソクーロフの素晴らしいところは、ハリウッドのように別の国の話なのに自国の言葉にせず、その国の言葉をちゃんと使うことですね。
佐野史郎のインタビューによると、日本語部分はかなり佐野さんが直したのだそうです。そのせいか、外国人が作ったとは思えない程、台詞に無理がありませんでした。

日本では作られることのない、皇室のしかも1945年8月の昭和天皇を主人公とした本作品。皇室のもっているイメージと、ソクーロフ独特の映像世界は意外と合っていたのかもしれません。皇室独特の喋り方も、ソクーロフの世界ではとても自然で、他の監督ではあの独特さは出なかったでしょう。
一つ一つの台詞の持つ重さや、その言葉を伝えるイッセ−尾形の演技は素晴らしいです。
ヒロヒト天皇の口癖「あ、そう」という台詞ももちろんですが、常に人に見られ、神であることを求められ続けるということがどんなものなのか、その孤独感が静かに伝わって来ます。

「劇中で陛下は自分を神とあがめることを否定します。一人の人間が『自分は人間である』と宣言する。なんて悲しい、なんてナンセンスなんだ、と思いました。これを世界中で唯一、背負わされた人間が昭和天皇。あの大変な時期に、権力の頂点に立たれた。これは想像を絶することです(イッセ−尾形のインタビューより)」

撮影はロシアで行われ、廃虚のシーンはいつもの「ソクーロフ廃虚」だったり、夢のシーンで飛び交う爆撃機が魚で、落ちる爆弾が小魚であったり。幻想的なシーンも不自然でなく美しい。
さり気なく子供っぽい天皇や、ソクーロフ演出の微妙な人物同士の緊張感漂う距離間も入っていて、ソクーロフ映画でこんなに声を上げて笑ったのは初めてです。

一昨年の冬、ある友人がこの映画の上映権を買ったことを知らせてくれました。日本での上映が難しいと言われ、上映館が決まるまで紆余曲折あったことは容易に想像出来ます。実際、予告されていた時期の上映は見送られ、上映館が決まるまで半年程伸びたのです。こんなに公開が決まって嬉しかった作品はありません。それもこれも、日本公開不可能と、どこも手を出さなかったこの作品を買った君がいてくれたからだ!ありがとう!
少しでも多くの人の目に触れて欲しい作品です。

ただ、ソクーロフの映画はとてもゆったりしているので、なれない人が見ると寝るかも…という懸念はあります(笑。
かつて、シネヴィヴァン六本木でのソクーロフ特集上映で初めて観た『静かなる1頁』は、台詞も極限までない、動きもかなりない!映画で、しかし目が離せなく、やたらと人と人の距離が近くて妙な緊張感があり、いったいなんなんだ!と思ったものです。そして、最後にばっさりと切る言葉が用意されている事も多く…。
今は亡き故、淀川さんがソクーロフ映画に対して「ソクーロフの汗で全身びちゃびちゃ」と表現した事があります。もう、素晴らしいくらいフィットする言葉でした。『太陽』はさすがにそこまでではないですけど、最後の「ばっさり」は用意されています。

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