新作落語「バールのようなもの」原稿

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 わたくし、学生時代には「国語学」を専攻しておりましたものですから、国語すなわち日本の言葉には特に敏感でございます。友人知人と会話しておりましても、ら抜き言葉は気になるわ、れ足す言葉は気になるわ、とにかく落ち着きません。テレビを眺めておりましても、敬語の乱れ、文法の乱れ、もう気になって気になって仕方ありません。
「このフライパンを使えばステーキがおいしそうに焼けます!」
 って、“おいしそう”なだけで、ほんとにおいしくはないんかい!
「御応募はコチラの宛先まで。ドシドシお待ちしております!」
 ドシドシ待つって、どんな状態やねん! ドシドシ御応募ください、だろうが!

 特に気になりますのがニュース番組。事件がらみのニュースを、よぉ〜〜く耳を澄まして聞いていると、頻繁に出て来るのがコレ、「ホニャララのようなもの」。たとえば強盗事件なんかでは、
「犯人は拳銃のようなものを店員に突きつけて金を要求し――」とか、
「犯人はヒモのようなもので○○さんを縛って逃走し――」とか、
「犯人は手にナイフのようなものを持っていたということです」とか、
 イチバンおかしかったのは、
「ブラジャーのようなもので首を絞められて――」
 不謹慎ですが、「ブラジャーのようなもの」って、アナタ。もういいじゃん、「ブラジャー」って言えばいいじゃん。ボカすならボカすで、「女性用下着のようなもの」とかさぁ、もすこしマシな言い方があるんじゃないかと思うわけで。
 そんなんですから毎度毎度ニュース番組には言語中枢をビシバシ刺激されております。
 んで、「ホニャララのようなもの」のキワメツケが「バールのようなもの」。

    ◆

「ドコソコのビルの1階にある宝石店が襲われ、宝石や現金などおよそ6千万円相当が盗まれるという事件が発生しました。事件当時店にはシャッターが下りていましたが、犯人はこれを“バールのようなもの”で破って、中に侵入した模様です」

ちゅろ 「ねえねえ、ヒロシくん、『バールのようなもの』って、何?」
カレシ 「ああん? バールってのはアレだよ、かなてこ」
ちゅろ 「カナテコ?」
カレシ 「だからぁ、こ〜〜んな長い釘抜き」
ちゅろ 「それは『バール』のことでしょ?」
カレシ 「今おまえ、『バール』って何? って訊かなかったか?」
ちゅろ 「違う違う、『バールのようなもの』って何? って訊いたの」
カレシ 「……また始まった。『バールのようなもの』は『バールみたいなもの』ってことだよ!」
ちゅろ 「えー。そんなの説明になってないよ。『バールのようなもの』も『バールみたいなもの』も同じ意味じゃん。あんた、『パソコンって何ですか?』って訊かれたら『パーソナル・コンピュータのことです』って答えるの?」
カレシ 「うるさいなぁ、それホントおまえの悪い癖だぞ! こないだも、『不思議の国のアリス』はどうして『不思議な国のアリス』じゃないんだとか、くだらないことで1時間も演説ぶちかましやがって。『バールのようなもの』は『何だか分からないけどバール状のもの』ってことだよ!」
ちゅろ 「何それ! 『バールみたいなもの』も『バール状のもの』も『バールのようなもの』と同じじゃない! 真面目に答える気あるの?」
カレシ 「しつこいって。俺もう帰る。おまえには付き合ってらんない」
ちゅろ 「え……」
カレシ 「じゃあな!」
ちゅろ 「ちょ……ちょっと!」

ちゅろ 「いいもん。ヒロシくんが教えてくれなくても、ヒラバヤシ方式で尋ねてみれば親切な皆様が教えてくださるハズだもんね。さぁ〜〜て、だ・れ・に・き・こ・う・か・な♪」

 ここで3名ぐらい指名してみる。どうせマトモな回答は得られないので、テキトーにツッコミを入れて受け流す。

ちゅろ 「――あやしい。こんなに誰も知らない言葉を、ニュース番組で解説ナシで遣うハズがない。事務所にある金庫がバールのようなものでこじ開けられたり、防火扉がバールのようなもので破られたり、事件当時バールのようなものを持った不審な男が近所で目撃されたり、こんなにフツーに遣われている言葉を、誰も知らないなんて。……ハッ! 知らないんじゃない、隠してるんでしょ! きっと、犯罪専門用具だから、知ってることを知られないように、知らないフリしてるんだ!」

ちゅろ 「こうなると何が何でも突き止めてやりたくなるな、『バールのようなもの』の正体を。そうだ、逆に知ってるフリして買いに行ってみよう。バールみたいなものって名前の道具なんだから、きっとバールと一緒に金物屋さんあたりで売ってるよね♪」

ちゅろ 「ごめんくださーい!」
店員A 「いらっしゃいませぇ〜〜どうぞ御覧くださぁ〜〜い」柳原可奈子風
ちゅろ 「す……すみません間違えました。なんで109なんかに迷い込んだんだろう?」

ちゅろ 「おじゃましまーす!」
店員B 「バールのようなものを探しているのはぁ、ドコのドイツだぁ〜〜い?」にしおかすみこ風
ちゅろ 「あたしだよ! ――じゃなくて、おおおおじゃましましたー! 変な店ばかりだな」

ちゅろ 「こんにちはー!」
店員C 「うぇえぇ〜〜い」小島よしお風
ちゅろ 「さようならー!」

ちゅろ 「あのー」
金物屋 「はいはい、いらっしゃいませ」
ちゅろ 「ああ、やっと普通の金物屋さんだ(泣)。あ……あのですね」
金物屋 「はい?」
ちゅろ 「実は、その……『バールのようなもの』、を探しているんですが」
金物屋 「――っ!!( ;゜Д゜)」顔芸
ちゅろ 「……ありませんか?」
金物屋 「ありますよ」笑顔を取り繕って
ちゅろ 「意外とアッサリ見つかったな」
金物屋 「はい、こちらがバールになります」扇子
ちゅろ 「バール“になります”って……。ナルホドこれからバールになる――つまりバールになる前の物体のことを、『バールのようなもの』というわけですね」
金物屋 「いえ、こちらがバールです」
ちゅろ 「え? 『バールのようなもの』じゃなくて?」
金物屋 「……ええ、バールですよ」
ちゅろ 「ああ〜〜それじゃ違います。あたしが欲しいのは、『バールのようなもの』のほうなんですけど」
金物屋 「だからバールでしょ?お嬢さん、あなたが欲しいのはバールなんでしょ?」
ちゅろ 「いえ、『バールのようなもの』です。よくニュースに出てくる、アレです」
金物屋 「滅多なことを言うもんじゃない。そんなもの、何に使うんだね?」
ちゅろ 「え? たたたたとえば金庫の鍵を失くしちゃって、どーしても何か他の物でこじ開けなきゃいけないときとか」
金物屋 「それならバールで充分ですよ」
ちゅろ 「鍵を中に入れたまんまシャッターを閉めちゃって、どーしても何か他の物でこじ開けなきゃいけないときとか」
金物屋 「それでもバールで充分ですよ」
ちゅろ 「ああっもうっ。それじゃ逆に訊きますが、どうすれば『バールのようなもの』を売ってくださるんです?」
金物屋 「どうしても手に入れたいのかね?」
ちゅろ 「どうしても手に入れたいです」
金物屋 「仕方ない、しばらくお待ちなさい」
ちゅろ 「うっわぁ〜〜、やっと手に入るぞ♪ んっ? 何だ? おじさん電話かけてるみたいだ」

金物屋 「……ええ、そうです『バールのようなもの』を手に入れたいと。とても犯罪者には見えない女の子なんですがね。ええ……どうしても、と。まだ若く見えるのに可哀想に。なるべく店に引き止めておきますから、早く来てください」

ちゅろ 「げっ、おじさん警察に通報してるよ。あのっ、やっぱりバールでいいです! 代金ここ置いときますから! さよ〜〜なら〜〜」

ちゅろ 「というわけで……ようやく手に入ったのが『バール』。意味ねぇ〜〜! やっぱり『バールのようなもの』は犯罪専門用具なんだなぁ。フツーに手に入らないとなったら、いよいよどうしても見てみたいよなぁ。どんなもんなんだろうなぁ」

ちゅろ 「ぁバールのようでバールでない、バールのようなもののようでバールのようなものでない、それは何かと尋ねたら……パール、パール、パール、パール、――」

(SE: Mr.マリックのテーマ)

ちゅろ 「あっ、電話だ。――もしもし? マリックさん? そうだと思った。おひさしぶりですー。最近またテレビ出てますねー。見てます見てます! んで? 今日は何……えっ? 新しい超魔術? なになに? ハンドパワーを電波に乗せて送って? 遠隔操作で金属を曲げるの? すっげぇ! 見たい見たい! 何か曲げてもいい金属の棒? ――持ってるよ〜〜!」バールの扇子

 以下、バールが想像を絶する曲がり方をする描写。むしろ顔芸。

ちゅろ 「ぬおっ! おわわわわ。あらららららら。うっわぁ〜〜! どひゃー! おおっ!」

ちゅろ 「うっへぇ〜〜。もうバールの原形とどめてません。流石ですねマリックさん。今度また飲みに行きましょう。それじゃまた……失礼しまーす」

ちゅろ 「さて、そろそろ帰るか。――あ、あんなところにヒロシくんがいる。さっきの喧嘩のこと、謝っとこうかな。ヒロシくーん! って……えっ? 何、あの隣の女。何で腕組んでんの? ちょっと! ヒロシくん!!」

カレシ 「うわっ! ななななんだよ!」
ちゅろ 「なんだよじゃないわよ、何その女」
女の子 「ヒロシのカノジョで〜〜す♪」
ちゅろ 「ど……どーゆーことっ!?」
カレシ 「待て、おまえ何だ、その手に持っている凶器は」
ちゅろ 「そんなのどうでもいいわよ、どーゆーことって訊いてんの!」
女の子 「いやぁん、このヒトこわぁ〜〜い」
ちゅろ 「てめぇ何だとこのクソアマ!」
警察官 「こらこらこらこらキミキミキミキミ、待ちなさい、何をやってるんだ」
ちゅろ 「あんた誰よ」
警察官 「警察だ」
ちゅろ 「ちっ……こんなときばっかり早いんだから」
警察官 「先程、このあたりを『棒のようなもの』を持った不審な女がうろついているという通報があってな。パトロールしていたらキミに出くわしたわけだが」
ちゅろ 「はい?」
警察官 「キミが手に持っているのは何だ?」
ちゅろ 「バールです」
警察官 「バカ言え、こんなおかしなバールがあるか」
ちゅろ 「ああ、そうか。そんじゃバールのようなものですね」
警察官 「――なんだと?」
ちゅろ 「あ! いえっ、あのっ、そのっ、そそそそーゆー意味で言ったんじゃないです! これは、あのですね、もともとは正真正銘ほんもののバールだったんですけど、Mr.マリックさんが遠隔操作の超魔術でもってこうグイィ〜〜ンとハンドパワーが」
警察官 「何を言っているのか分からない。署まで御同行ねがおう」
ちゅろ 「でででですから! これはあの有名な『バールのようなもの』ではなく、もとバール、バールであったもの、そーゆー意味で、バールみたいなもの、と申し上げた次第でございましてぇ」
警察官 「つまり『バールのようなもの』だということだろう? 署まで御同行ねがおう」
ちゅろ 「ちーがーうーっ!! これは決して『バールのようなもの』ではなーいっ!!」
警察官 「これが『バールのようなもの』でなければ何なのだ」
ちゅろ 「え……ええっと……ええっと……『バールのようなもの』……のようなもの、でございます」


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この記事は笑える話【オリジナル作品】に投稿されたちゅろ@おかしらさんのブログ記事です。
http://blog.livedoor.jp/oresamagician/archives/51346359.html

執筆者ちゅろ@おかしらさん

投稿日時2008/04/30 00:02:20


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