★時代小説・東海道五十三次恋詩『 いいってことよ !』★序章★

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今日、ブログルポのシュアブログに記事(オリジナル小説)を投稿してみますが、
なにせ初めて上手くいくかどうか不安です・・・。





★時代小説・東海道五十三次恋詩『 いいってことよ !』★




時代小説・東海道五十三次恋詩 (一)『 いいってことよ !』




             序章





晩秋のやさしい日差しがゆらゆらと流れこんでいた。

此処は矢の倉町にある料理屋・吾妻の二階座敷である。窓枠に腰を下ろすの女の眼下には墨田の川波や行き交う船が見えているはずなのだが。

涼味の増した川風が腰を下ろす女の脇をすり抜け、男の頬を撫で床の間に掛かる軸の風鎮を「コトッ」と鳴らしていた。
女がおもむろに振り向くと、西日を急に受けた男が眼を細めていた。

女は、「おもん」。

思わず西日を受け、眼を細めた男は絵師の広重であった。

陽気で心持ち受け口のおもんは、目が細く切れ長である。
振りきざまに微笑んだ後には、一瞬だが女の持つ本性が見え隠れするのだが、
広重は限ってその時、胸の鼓動が早くなり軽い目眩を覚えるのであった。

「・・・もう冬の匂いがするわ」

詠嘆するかのように言ったおもんを見つめ、出逢いの日のことを想い出していた。


広重は、幼名を徳太郎と名づけられ十五の春を迎えたその年、重右衛門と名を改めていたと同時に
初代・歌川豊国の弟子になるため門戸を叩いた。
が、あまりの門人の多さに「これだけの門人が居ては、埒があかぬ・・・」と一人うそぶいていた。

かねてからの出入りを繰り返していた貸本屋・仙吉を馴染みのそば屋に呼び出し、そして両の手を合わせ、泣き付き、
豊国と同門の歌川豊広の門下に入ることが出来たのである。仙吉様様であった。

幼きころより広重は画才があったのか、豊広の元では僅か、僅か一年足らずで師・豊広の「広」を許され、
重右衛門の「重」と合わせ「広重」と名乗ったのである。

事なき時が流れ、広重・十九才を間近にした秋も深まる頃、師・豊広の知り合いが紹介する「おもん」と言う名の女を描いてくれとの依頼が舞い込んできたのだが、この頃の広重はとんと人物絵などに興味はなく、豊広の奥深い願いなど何処吹く風であった。
広重は広重で美人画を書くと言うことに躊躇いを感じていた。

豊広との、問答を繰り返す日々がひと月ほど続いたが広重は、ついに豊広に押し切られ、「おもん」という女を描くことについに首を立てに曲げたのである。

「では、期日は十日後に・・・頼んだぞ」膝を突き合わせていた豊広は、一言を添え膝を伸ばしていた。
「何故、俺が美人画を書かねばならぬのだ、師匠が得ているはずなのに・・・、何故・・・」
そう言うと、広重は六畳の間を目一杯使うようにごろんと大の字を書くように天井の木目を見つめていた。
 
あまりの豊広の説得により首を立てに下ろした広重は豊広の知り合いが介した「おもん」を目の前に、美人画を描くことに躊躇いを感じつつ「今、描いたら負けてしまう・・・」と筆を持つことに躊躇っていた日のことを思い出していた。

その日来た。
が結句、広重はおもんを目の前に筆を持つことはなかった。師・豊広が広重の体たらくに、ごうを切らし筆を走らせてしまった。

錦絵に載ったおもんは、その年の瀬に絵草子屋の軒先を飾っていた。

美人画の描写は己の進む道ではないと強く意識をし始めていた広重は、風景画が持つその奥深さに魅了され、吾妻の二階座敷でおもんを書上げることで今までの迷いを打ち消そうとしていたのである。

「下絵はこの辺でいいだろう」

畳に置かれている画紙の中には、窓枠に腰を浅く下ろしたおもんの姿があった。
そして柳の木の先を焼き焦がした筆で最後と言える口の輪郭線を広重は書き入れていた。

広重の声に促されたおもんは、窓枠からゆっくりと腰を上げ広重に寄り添う形で座っていた。おもんの横顔は刻々と移り行く茜色の夕陽に映り男心をそそっていた。

「嬉しい・・・、広さん、このおもんで最後なんですねぇ?」
「あぁ、本当だ、もう美人画は描かぬ」

うれしさを隠しきれずにいるおもんの胸の内など気づくはずもなかった。
美人画に固持するあまり、筆を持ちたくなる女を探し歩き、挙句のはてには「願った女がいない・・・」と、
愚痴る広重を見なくてもいいのである。
おもんの口許が自然と緩み白い歯が覗いてしまうのもむりがなかった。

「広さんは、これから何を描こうと・・・」
「うむぅ、漠然としか言えないが、自然いや風景を描いてみたい・・・」
「今日は、広さんに見せたい物があるのよ」
「この俺に・・?」

そう広重が返しの言葉を投げかけた時、天保元年雷無月の陽がまさに落ち、墨田の川面が残照により黄金色に輝いていた。



                               

この記事は小説【オリジナル作品】に投稿された心は自由人さんのブログ記事です。
http://blog.livedoor.jp/ycrsu5/archives/607561.html

執筆者心は自由人さん

投稿日時2008/10/05 13:28:57


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