『手を繋ごう』

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 たとえば、ふたり桜の木の下で。

 おきにいりの公園。
 ベンチなんてないから、そこらへんの草の上にテキトーに並んで座って。はらはら風に舞い散る桜を眺めながら、昨日のこと、今日のこと、明日のこと、とりとめない話に花を咲かせているうちに、気がついたら日は暮れていて、あたりは薄墨色の淡い闇。
「あ……もうこんな時間なんだ」
「このまま夜桜見物に突入しましょーか」
「冗談やめてよ、何時間いたと思ってんのよ」
「おなか空いたんだろ」
「寒いっつってんの!」
 そう、春とはいえ、まだまだ夜は冷え込む季節だ。
 ふたりは、戯れ合いながら立ち上がって、服に付いた花びらや草を払ったり、大きな伸びをしてみたり、めいめい勝手に行動する。……と。
 たまさか同時によろめいて。
「おっと」
「うわっ」
 彼の左手の指先と、彼女の右手の指先が、触れ合った。というより、絡み合った。

「――あ」

 おたがい、あまりにも体温が違ったものだから驚いて、パッと手を離してしまう。
 ほんの一瞬で、彼女の心には彼の手のぬくもりが、彼の心には彼女の手のつめたさが、それぞれ電流のように流れ込んで、「すべて分かった」気がした。
 再び、見つめ合う。まるで、初めて出逢ったみたいに。
 胸がドキドキした。泣きたくなった。

「おまえ……」彼が真顔で言った。「めちゃくちゃ冷たい手ぇしてんなー。雪女か。――ほれ」
 ほれ、と差し伸べられる手。彼女は、もう照れて耳まで赤くなって、でも怯えたような表情で、自分の手と彼の手を見比べて、何やら戸惑っている様子。
「何だよ」
 彼は、決して怒っているわけではないのだが、ついつい強い口調で彼女に問うた。
「――げない」
 半ば泣き声で彼女は答えた。
「ああ?」
「つなげない」
「なっ……なんでだよ」
 驚く彼に、今度こそ泣きながら、彼女は言う。

「つないだら……もう二度と、離せなくなる――」

 あなたの手の、そのぬくもりが、こいしくて。
 あなたの手の、そのやさしさが、いとしくて。

「ああ、もうっ。バカだなホントに」
 たまらなくなって、彼は両手で彼女の両手を引き寄せ、包み込んだ。怒っているような彼の顔も耳まで真っ赤だ。
「離さなくていいじゃん。離すことないじゃん。さっき、おまえにも分かったんだろう?」

 ――ずうっと探し続けてきた手だってことが。

 ざぁあああっ……と一陣の風が吹き抜け、ふたりを祝福するかのように、桜の花が舞い上がる。思わず夜空を見上げると、そんな桜吹雪の向こう側には、銀色の満月が浮かんで見えた。

 やっと巡り逢えた、手と手、心と心、魂と魂。
 桜の木の下で。

    ◆

 深い意味はないのだが、こないだから何度も何度も繰り返し目に浮かんできた“一場面”。もともと初詣だか何だか神社仏閣っぽい背景だったのを、季節を踏まえて焼き直し。できれば予知夢の白昼夢みたいなものであって欲しいと願う乙女心(笑)。
 そのときがきたら、ボクは「手」で分かる……ような気がする。


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この記事は小説【オリジナル作品】に投稿されたちゅろ@おかしらさんのブログ記事です。
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執筆者ちゅろ@おかしらさん

投稿日時2008/04/01 00:47:50


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